12台限定生産「マセラティ MC12 ヴェルシオーネ・コルセ」が約4.8億円で落札

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Courtesy RM Sotheby’s

2024年1月31日、パリで開催されたRMサザビーズのオークションにて、自動車史に残る記念碑的な一台が新たなオーナーの手に渡った。わずか12台のみが生産された「2007年式 マセラティ MC12 ヴェルシオーネ・コルセ(Maserati MC12 Versione Corse)」である。落札価格は3,042,500ユーロ(当時のレートで約4億8,000万円)。マセラティ史上最もパワフルであり、最も純粋なこのトラックカーは、なぜこれほどまでに世界中のコレクターを熱狂させるのか。その全貌に迫る。

レースへの回帰、そして「究極」の誕生

1950年代、マセラティはスターリング・モスやファン・マヌエル・ファンジオといった伝説的なドライバーと共に、モータースポーツの頂点に君臨していた。しかしその後、同社は長らくレース活動から遠ざかり、洗練されたロードカーの製造に専念することとなる。その沈黙が破られたのは21世紀初頭。マセラティは再びそのルーツであるサーキットへと回帰した。その象徴こそが、2004年のジュネーブ・モーターショーで発表された「MC12」である。

フェラーリ・エンツォのDNAを色濃く受け継ぎながらも、マセラティ独自の改良が施されたこのハイパーカーは、FIA GT選手権へのホモロゲーション取得を目的としていた。ジョルジオ・アスカネッリ率いるマセラティ・レパルト・コルセの開発により、MC12はスパ24時間レースでの連覇を含む数々の国際タイトルを獲得。トライデント(三叉の矛)の栄光を現代に蘇らせたのである。

規制から解き放たれた745馬力の怪物

MC12の圧倒的な戦績を目の当たりにした富裕なエンスージアストたちは、その「究極の体験」を求めた。それに応える形で2006年に登場したのが、今回落札された「MC12 ヴェルシオーネ・コルセ」だ。

フェラーリにおける「FXX」と同様、公道走行もレース参戦も想定されていない純粋なトラック専用モデルである本作は、FIAのレギュレーションという枷(かせ)から完全に解き放たれている。GT1規則で義務付けられていた吸気リストリクターを排除した結果、その心臓部である6.0リッターV型12気筒エンジンは、驚異の最高出力745ps/8,000rpmを発揮。これはベースとなったMC12ストラダーレや、チャンピオンシップを制したGT1マシンさえも凌駕するスペックであり、今日においても「史上最強のマセラティ」の座に君臨し続けている。

純粋なるドライビング・プレジャー

ヴェルシオーネ・コルセの魅力は、そのパワーだけではない。車重はストラダーレより約200kgも軽量化された1,150kg。ABSやトラクションコントロールといった電子制御は一切排除され、カーボンセラミックブレーキと6速カンビオコルサ・ギアボックス、そしてドライバー自身の腕のみで操ることを要求される。

0-200km/h加速はわずか6.4秒。しかし、そのパフォーマンスは決して暴力的ではなく、驚くほど扱いやすいと評される。これはマセラティが目指した「ユーザーフレンドリーなレーシングカー」という理念の結晶である。

幻の「アランチョ」カラーを纏う個体

今回、RMサザビーズに出品されたシャシーナンバー「0008」は、選ばれし12人の顧客の一人にデリバリーされた個体だ。ドイツの著名なコレクターのもとで、フェラーリFXXと共に保管されていたこの車両は、鮮烈な「アランチョ(オレンジ)」のカラーリングを纏っている。

新車時からの走行距離は極めて少なく、マセラティ・コルセの元メカニックによるエンジンリビルドや、デンマークのスペシャリストによるメンテナンスが施されており、コンディションは完璧に近い。マッチングナンバーのエンジン、オリジナルのスパルコ製シート、そして燃料リグやスペアホイールなどの付属品も完備されている。

約300万ユーロという落札価格は、この車が単なる機械ではなく、マセラティの情熱と技術の頂点を極めた芸術品であることを証明していると言えるだろう。