2025年10月14日、メルセデス・ベンツは、新たなデザイン時代を象徴するショーカー「Vision Iconic(ビジョン・アイコニック)」を発表した。ブランドの栄光あるヘリテージを継承しつつ、未来のモビリティを見据えたこのモデルは、美しさと知性、伝統と革新の融合を体現している。
伝統を再構築する ― “アイコニック・グリル”の誕生

Vision Iconicのフロントには、メルセデス・ベンツの象徴であるラジエターグリルを再構築した「アイコニック・グリル」が鎮座する。
その造形は、クラシックメルセデスの象徴的モデルである W 108、W 111、そしてかつて国家元首や著名人が愛用した メルセデス・ベンツ600プルマン からインスピレーションを得ている。これらのモデルに共通するのは、垂直に構えたクロームグリルが放つ圧倒的な存在感であり、Vision Iconicではその威厳を現代的な光の演出によって再定義している。
クロームフレームの内側には、スモークガラスのラティス構造が浮かび上がり、そこに緻密なLEDイルミネーションが組み込まれている。光が流れるように点灯することで、かつての「グリル=吸気装置」という概念を超え、デジタル時代における“顔”としての役割を果たしているのだ。
さらに、ボンネット上のスリーポインテッド・スターが明るく輝き、かつてのメルセデスが持っていた威厳と、未来的な知性の共演を演出している。
300 SLへのオマージュ ― 流麗なるラインと彫刻的リアデザイン

Vision Iconicのボディラインは、1950年代の伝説的スポーツカー 300 SL への敬意を明確に示している。
なだらかに流れるフロントフェンダーからリアにかけての造形は、まるで風そのものをデザインしたかのようであり、流体的でありながらも張りのあるフォルムが特徴だ。
特にリアセクションの処理は、300 SLの象徴であるロングテールの優雅さを現代的に再解釈しており、光沢を帯びたディープブラックのハイグロス塗装と組み合わされることで、まるで動く彫刻のような存在感を放つ。
アール・デコの再興とクラフトマンシップの融合

インテリアでは、アール・デコ様式の幾何学的構成と、メルセデスのクラフトマンシップが融合している。
「ツェッペリン」と呼ばれるガラス製インストルメントパネルは、かつての計器盤を思わせる精密な造形を持ちながら、デジタル情報を浮かび上がらせる新しい表現方法を採用。
インストルメントのアナログ的な動きは、高級クロノグラフから着想を得たものであり、過去と未来の時間が交差する瞬間を象徴している。
ドアパネルには、真珠母のマーケトリー(象嵌)が施され、600プルマンに見られたような上質で儀礼的な空間性を再現している。シルバーゴールドのドアハンドルや、ストロー・マルケトリーによる床装飾など、どのディテールも芸術的でありながら機能美を兼ね備える。
革新が生む次世代の体験
Vision Iconicは、ソーラーペイント技術によって車体全体で太陽光をエネルギー化し、最大で年間12,000km分の電力を生み出すことができる。さらに、人間の脳の神経構造を模したニューロモルフィック・コンピューティングによって、AI処理を従来の10倍効率化。クラシックモデルに宿る美学と、最先端技術がひとつの造形に融合している。
時代を超える存在
W 108やW 111が確立したサルーンの威厳、300 SLが象徴した美の流線、600プルマンが体現した貴族的なラグジュアリー。
それらすべてを再構築し、未来へと昇華させたのがVision Iconicである。
それは単なる自動車ではなく、「時間の継承」と「未来への約束」を走らせる、メルセデス・ベンツの新たな芸術作品なのだ。