伝説を再構築したスピードスター
ポルシェの熱狂的なファンであり、デザイナーでもあるルカ・トラッツィ氏が、長年抱いてきた夢を実現させた。彼は「自分の理想とする911スピードスターが見つからなかったので、自ら作ることにした」と語る。その情熱が、Sonderwunsch(ソンダーヴンシュ)プログラムを通じて、唯一無二の911スピードスター(タイプ993)として結実した。

歴史に空白を残した993型スピードスター
1954年に初登場して以来、スピードスターはポルシェの象徴的存在であり続けてきた。だが、911の第4世代である993型には、正式なスピードスター仕様が存在しない。過去に2台のワンオフモデルと、1台のレストア事例はあったものの、量産モデルとしては登場しなかった。本車両は、まさにその歴史の空白を埋める存在である。
共同開発というプロセス:顧客でありデザイナーでもあるトラッツィ氏
ルカ・トラッツィ氏は、1994年式911カレラ・カブリオレ(タイプ993)をベースに、自ら描いたスケッチや資料をもとにプロジェクトをスタート。ポルシェのデザイナーやエンジニアと密に連携し、3年以上の歳月をかけて完成に至った。プロジェクト中には塗装工程や製造現場にも立ち会い、「Otto Yellow」と名付けた愛犬由来の専用カラーも誕生した。
外装と内装:クラシックと現代の融合

スピードスターの象徴である低いフロントウィンドウとリアデッキリッドは再解釈され、ボディラインも完全に再設計された。外装色は特注の「Otto Yellow」。18インチのターボデザインホイール、ブラックのドアハンドルやストーンガード、993ターボ由来のエアロパーツが特別な存在感を演出する。

内装にはブラックレザーを基調にイエローステッチを配し、シート中央にはイエロー×ブラックのチェック柄を採用。ダッシュボードやコンソールにはカーボン素材が用いられ、ドアシルには「Otto Yellow」に光るイルミネーションロゴがあしらわれる。
テクノロジーとパフォーマンス

ポルシェ・クラシック・コミュニケーション・マネジメント(PCCM)によって、Apple CarPlayやナビゲーションも装備。パワートレインは911カレラRS(993型)から流用された空冷3.8L水平対向6気筒で、最高出力300PSを誇る。
Sonderwunsch Factory One-Offの意義
本モデルは、Sonderwunschプログラムにおける「Factory One-Off」として初の顧客向けワンオフ車両である。この究極のカスタムメイドプロセスは、アイデアの共有から設計・製造に至るまで顧客が深く関与するという、真のコ・クリエーションの形を体現している。