映像芸術と自動車の交差点:Jamie xx “Gosh”
優れたミュージックビデオは、単なる楽曲のプロモーション枠を超え、一つの独立した映像作品として成立する。イギリス出身のプロデューサー、Jamie xx(ジェイミー・エックス・エックス)のソロ楽曲「Gosh」のミュージックビデオは、まさにその境界線を越えた現代芸術である。中国にあるパリのレプリカ都市「天都城」を舞台にしたこの映像作品において、数百人の金髪の若者たちを先導する一台の車が、強烈な異彩を放っている。それが、スバル インプレッサ WRX STiである。果たして、このアイコニックな日本製スポーツカーは、作品の映像美にいかなる影響を与えたのか?
Jamie xx:現代エレクトロニック・ミュージックの旗手

Jamie xxは、世界的な成功を収めたインディー・ポップ・バンド「The xx」の頭脳であり、現代のエレクトロニック・ミュージックシーンを牽引するプロデューサーである。彼の生み出すサウンドは、UKガラージやダブステップといったアンダーグラウンドなクラブミュージックの文脈を踏襲しつつも、極めて洗練されたミニマリズムと深い叙情性を帯びている。2015年にリリースされたデビュー・ソロアルバム『In Colour』に収録された「Gosh」は、重厚なベースラインと反復するサンプリングボーカルが特徴的な、彼のキャリアを代表するアンセムである。
鬼才 ロマン・ガヴラスの描く世界
Embed from Getty Imagesこの圧倒的な映像のメガホンを取ったのは、フランス出身の映画監督・映像作家のRomain Gavras(ロマン・ガヴラス)である。M.I.A.の「Bad Girls」やJusticeの「Stress」など、社会的なタブーや暴動、ストリートカルチャーを鮮烈なビジュアルで描き出すことで知られるガヴラスは、「Gosh」においてもその才能を遺憾無く発揮している。CGを一切使用せず、計算し尽くされたカメラワークと圧倒的な群衆の統制美によって、現実と非現実の境界を曖昧にする独自の世界を構築した。
狂気と静寂が交錯するディストピア的映像美
映像の舞台となる天都城は、エッフェル塔の精巧なレプリカがそびえ立つ奇妙なゴーストタウンである。「Gosh」のビデオは、このシュールな空間をキャンバスに、揃いのジャージを着た何百人もの金髪の若者たちが一糸乱れぬ行進を見せる。そこにあるのは、無機質でありながらもどこか宗教的な熱狂を孕んだ、美しくも恐ろしいディストピアの風景である。色彩は抑えられ、建築物のスケール感と人間の無力さが対比される中、静かな狂気が映像全体を支配している。
象徴としてのJDM:スバル インプレッサ WRX STi(Hawkeye)
この統制された狂気の世界において、唯一の「機械的な主役」として登場するのが、スバル インプレッサ WRX STiである。映像に起用されたのは、2005年のマイナーチェンジで登場した通称「鷹目(Hawkeye)」と呼ばれるフロントフェイスを持つ2代目インプレッサの後期型(GDB型)だ。
スバル伝統のシンメトリカルAWDシステムと、名機EJ20型水平対向4気筒ターボエンジンを搭載するこのモデルは、WRC(世界ラリー選手権)で培われた技術の結晶である。ワールドラリーブルーのボディカラーに、ゴールドのBBS製鍛造ホイール、そして巨大なリアスポイラーという組み合わせは、JDM(Japanese Domestic Market)カルチャーの象徴として世界中のエンスージアストから神格化されている。
インプレッサが “Gosh” の映像世界に与える影響とは?

なぜ、ガヴラス監督はヨーロッパのスーパーカーや高級セダンではなく、日本のラリーレプリカを選んだのだろうか。それは、WRX STiが持つ「ストリートの獰猛さ」と「機能美」が、映像のテーマと完璧に共鳴したからに他ならない。
エッフェル塔のレプリカという「虚構の西洋」を背景に、強烈な個性を持つ「本物の東洋の機械」が隊列を先導する構図は、鮮やかなコントラストを生み出している。無機質なディストピア建築の中で、スバルブルーの車体は視覚的な特異点となり、水平対向エンジンの低く唸るような存在感(映像内ではエンジン音は排されているものの、車が持つオーラとして)が、静寂の映像に暴力的なまでの運動性能を暗示している。WRX STiは単なるプロップ(小道具)ではなく、若者たちの熱狂を束ねるカリスマ的なシンボルとして、映像に抗いがたい引力とストリートの文脈を付与しているのである。













