アルファ ロメオが、ブランドの次世代デザインと電動化戦略を提示するコンセプトカー「Cuorerosso(クオーレロッソ)」を発表した。2026年10月12日、パリモーターショー2026で世界初公開されたこのモデルは、単なる未来の量産車を予告するショーカーではない。アルファ ロメオがこれからの時代にどのようなクルマを生み出していくのか、その思想を表現したデザインマニフェストである。
イタリアンブランドならではの美意識、スポーティネス、そしてドライバーの感情を揺さぶる走行体験。Cuorerossoは、アルファ ロメオが長年にわたって築き上げてきた価値を再解釈し、電動化が進む自動車産業のなかでも「運転する喜び」を追求する姿勢を明確にしている。
その背景にあるのは、クルマを単なる移動手段としてではなく、人間の感情に深く結びついた存在として捉える思想だ。
Cuorerossoという名前に込められた意味

Cuorerossoという名称は、イタリア語の「Cuore(心)」と「Rosso(赤)」を組み合わせたものだ。
赤は、アルファ ロメオの歴史において情熱やスポーティネスを象徴してきた色である。一方、心は、人とクルマのあいだに生まれる感情的なつながりを意味する。両者を融合させた名称には、性能や技術だけでは説明できない、アルファ ロメオならではの魅力を未来へと引き継ぐ意志が込められている。
同ブランドにとって、クルマ選びは必ずしも合理性だけで決まるものではない。デザインに心を奪われ、エンジンの鼓動に魅了され、ハンドルを握った瞬間にそのクルマとの関係が始まる。そうした直感的な感情こそが、アルファ ロメオのブランド体験を形づくってきた。
Cuorerossoは、その価値観を現代的なデザインとテクノロジーによって表現したモデルである。
Bellezza Necessaria:必要なものだけで美をつくるデザイン哲学

Cuorerossoのデザインを理解するうえで重要なのが、「Bellezza Necessaria(必要不可欠な美)」というアルファ ロメオ独自のデザイン哲学だ。
その考え方は、装飾を重ねることで美しさを生み出すのではなく、不要な要素を取り除き、必要なものだけを残すことにある。造形、機能、テクノロジー、素材の質感をひとつの言語へと統合することで、必然性のある美しさを追求する。
開発を担ったアルファ ロメオ・チェントロ・スティーレは、初期スケッチの段階を短く切り上げ、早期に3Dモデリングへと移行したという。最初からホイールやガラス、細部の装飾を描き込むのではなく、ひとつの大きな塊から彫刻を削り出すように、ボディのボリュームとプロポーションを探求した。
その結果として生まれたのが、まるで液体金属が流れるような連続的なボディサーフェスである。
静止しているにもかかわらず、表面の緊張感によって動きを感じさせる造形。機械としての機能を備えながら、それ自体がひとつの彫刻として成立することを目指している。
イタリアの芸術や工芸の伝統を現代の自動車デザインへと接続する、アルファ ロメオらしいアプローチといえるだろう。
2+2クーペのプロポーションと彫刻的なエクステリア
Cuorerossoは、グランツーリスモの優雅さとスーパーカーの存在感を融合させた2+2クーペだ。伸びやかなボディと低いルーフ、前後に連続する緊張感のあるラインが特徴で、実用性を過度に主張することなく、走りへの期待を造形そのものに込めている。
主要諸元は以下のとおり。
| 項目 | 数値・仕様 |
|---|---|
| ボディタイプ | 2+2クーペ |
| 全長 | 4,700mm |
| 全幅 | 1,980mm |
| 全高 | 1,331mm |
| ホイールベース | 2,930mm |
| 車両重量 | 1,750kg |
| 空気抵抗係数(Cx) | 0.28 |
全長4,700mmに対して全高は1,331mm。ワイドかつ低重心なフォルムが、スポーツカーらしい緊張感を生み出す。ホイールベースは2,930mmに達し、2+2クーペとしての伸びやかなシルエットを支えている。
空力面では、滑らかに連続するボディ形状に加え、後端を切り落とした「Coda Tronca(コーダ・トロンカ)」と、ボディに一体化された低いディフューザーを採用。これらの要素によって、Cd値0.28を実現したという。
伝統のScudettoとTriloboを再解釈

フロントマスクには、アルファ ロメオを象徴する盾形グリル「Scudetto(スクデット)」と、中央のグリルを左右の吸気・ライト要素が囲む伝統的な「Trilobo(トリロボ)」の意匠が組み込まれている。
ただし、Cuorerossoでは過去のデザインをそのまま再現するのではなく、彫刻的なボンネットのボリュームと一体化させることで、より現代的な表情へと昇華している。
グリルには、ブランドの象徴である十字架やビショーネ(大蛇)のモチーフを想起させる、小さな三角形のバックライト付き要素を配置。心臓の鼓動を思わせる光の演出が、フロントに生命感を与える。
リアでは、Scudettoを思わせる形状のリアウインドウと、Coda Troncaに組み込まれた2つの円形テールライトが印象的だ。ボディ表面の連続性を損なわないよう、ドアハンドルは廃され、ルーフ上のタッチコントロールによってドアを開く仕組みとなっている。
さらに、後方へ開くリアドアが乗降時の演出を際立たせる。ミラーにはイタリア国旗をモチーフとした意匠があしらわれ、細部に至るまでイタリアンブランドとしてのアイデンティティが反映されている。
テレフォンホイールとQuadrifoglioの存在

足元には、アルファ ロメオの歴史を想起させるテレフォンホイールの意匠を再解釈した鍛造ホイールを採用。3本スポークを基調としながら、6つの円形要素を2+2+2の配置で組み合わせ、開口部にはScudettoを思わせる三角形の造形を取り入れた。
視覚的な軽快さだけでなく、空力効率も考慮されたデザインである。
また、フェンダーにはアルファ ロメオの高性能モデルを象徴するQuadrifoglio(クアドリフォリオ)のエンブレムが配されている。これは、将来のスポーツモデルに向けてもブランドの伝統的なパフォーマンス志向を継承していく姿勢を示すものといえる。
Liquid Ink Red:内側から発光するような特別な赤

Cuorerossoの外観を印象づけるのが、「Liquid Ink Red」と名付けられた専用ボディカラーだ。
微細なアルミニウムベースの上に着色された透明層を重ねることで、深い奥行きと独特の光沢を表現している。光が当たると鮮烈な赤が浮かび上がり、見る角度が変わるにつれて黒に近い色調へと移ろう。
単にボディ表面を赤く塗装するのではなく、内部からエネルギーが放たれているかのような視覚効果を狙った仕上げだ。
この色彩表現は、Cuorerossoという名称とも密接に結びついている。赤をブランドの象徴として掲げるだけでなく、光、素材、造形を通じて感情を伝えるための要素として扱っているのである。
ドライバーを中心に構成されたインテリア
インテリアでも、Cuorerossoを貫くのはドライバー中心の思想だ。
4つの独立したシートを備えるキャビンは、乗員を包み込むような形状と、スポーツシートの機能性を現代的に解釈したエルゴノミクスによって構成されている。センターコンソールは前後方向に伸び、ドアパネルの造形も室内を包み込むように連続する。
ダッシュボードの設計には、1967年に登場した伝説的モデル、33 Stradaleの建築的な構成から着想を得た要素が取り入れられた。水平基調の薄いデザインによって視覚的な軽さと安定感を生み出し、ドアパネルへと連続する造形が室内空間の広がりを強調する。
特徴的なのが、従来のメータークラスターを発展させた「Cannocchiale Vivente(カンノッキアーレ・ヴィヴェンテ)」と呼ばれるインターフェースだ。
運転時の情報表示を2つの要素で構成する「Immersivo」と、2つの要素を物理的に統合し、より簡潔な表示へと切り替える「Concentrato」の2つのモードを備える。運転への集中度が高まるにつれて表示情報を絞り込み、必要な情報だけを残すという発想である。
これは、デジタル化を進めながらも、運転そのものへの没入感を損なわないための試みといえる。
ステア・バイ・ワイヤとMagma Display
ステアリングシステムには、電子制御によって操舵入力を伝えるステア・バイ・ワイヤを採用。これにより、伝統的な3本スポークのステアリングホイールを新しい形で解釈している。
一方で、Cuorerossoはデジタル技術だけに依存しているわけではない。ステアリングや機械式操作部には触覚・音響フィードバックを取り入れ、ドライバーが物理的な手応えを感じられるよう配慮されている。
センタートンネルには「Magma Display」と呼ばれる操作系を配置。デジタルタッチサーフェスに加え、ロータリーダイヤル、ドライブモードセレクター、トグルスイッチを組み合わせることで、画面操作と物理的な操作を融合させている。
ドライブモードはCruise、Sport、Quadrifoglioの3種類。単にパワートレインの特性を切り替えるだけでなく、車両とのインタラクション全体を走行状況やドライバーの求める没入度に応じて変化させるという考え方だ。
テクノロジーを前面に押し出すのではなく、必要なときに直感的に扱えるようにする。その姿勢もまた、Bellezza Necessariaの思想と結びついている。
Poltrona Frauの素材と再生素材が融合する空間
Cuorerossoでは、素材の選択にも強いこだわりが見られる。
インテリアには、チタン、アンスラサイト、ガンメタルを想起させる色調の金属素材と、赤を基調とした有機的な表現を組み合わせている。シートや乗員が直接触れる部分には、手作業で仕上げられたPoltrona Frauのヌバックを使用し、触覚的な豊かさを重視した。
また、上質な内装材の製造工程で生じる産業廃棄物を60%含む再生レザーも採用。従来の素材が持つ質感や品質を維持しながら、素材を新たな形で活用する試みが行われている。
ダッシュボードには、アメリカズカップに向けた活動でも知られるセーリングチーム、Luna Rossaとの技術的な連携から着想を得た、軽量で透過性のあるモノフィラメント素材を使用。高性能なセーリング用ウェアの技術を応用し、軽さ、強度、機能性を追求している。
さらに、リサイクルカーボンファイバーと赤色樹脂を組み合わせた新世代複合素材の研究や、職人的なレザー加工を施したヘッドレストなども盛り込まれた。
こうした素材の融合が目指すのは、単なる高級感ではない。伝統的なイタリアの職人技と先進的なテクノロジーを同じ空間に共存させ、クルマに触れる体験そのものを豊かにすることである。
センターコンソールが作動すると、マグマや溶岩を思わせるパターンから赤い光が浮かび上がる演出も用意されている。光は装飾にとどまらず、運転モードに応じて変化し、ドライバーとのコミュニケーションを担う要素として機能する。
V6ハイブリッドからフル電動まで。アルファ ロメオの電動化戦略
Cuorerossoが提示する重要なテーマのひとつが、電動化と走行性能の両立だ。
アルファ ロメオは今後、フル電動、プラグインハイブリッド、マイルドハイブリッド、フルハイブリッドといった複数のパワートレインを展開し、市場や用途の違いに対応するマルチエナジー戦略を進める方針を示している。
これは、ブランドの個性を単一の動力方式に依存させるのではなく、技術の選択肢を広げながらも、走る楽しさやスポーティネスを共通の価値として維持する考え方だ。
Cuorerossoでは、その高性能な方向性を示す構成として、2.9リッターV型6気筒エンジンを用いたフルハイブリッド、Q4四輪駆動、トルクコンバーター式トランスミッション、カーボンファイバー製プロペラシャフトの組み合わせが示されている。
ただし、これは量産モデルの確定仕様を意味するものではなく、コンセプトが示す将来の技術的な可能性として捉える必要がある。
また、エアサスペンションやBrembo製カーボンセラミックブレーキも採用され、走行性能を重視するアルファ ロメオの姿勢が表現されている。
興味深いのは、電動化を単なる環境対応や効率向上のための手段として扱っていない点だ。同ブランドが目指すのは、新しい技術によって運転体験をさらに豊かにすること。パワートレインが変わっても、ドライバーの感情を動かすクルマであることを優先するという考え方である。
Cuorerossoは量産化されるのか?今後のモデルへの影響

Cuorerossoは、特定の量産モデルをそのまま先取りしたコンセプトカーではない。アルファ ロメオ自身が、将来のデザインや技術の方向性を示すマニフェストとして位置づけている。
そのため、4,700mmという全長や2+2クーペのボディ形状、V6ハイブリッドの構成が、そのまま市販車に引き継がれると断定することはできない。
一方、今回の発表では、全長4.7mまでの主要セグメントをカバーするモデル群、複数のパワートレイン、そしてQuadrifoglioの名を冠する高性能モデルの可能性が示された。
重要なのは、Cuorerossoの造形をそのまま量産車に移すことよりも、そこに込められたデザイン哲学がどのように市販モデルへと展開されるかという点にある。
余計な装飾を排し、機能と美しさを統合すること。運転に必要なテクノロジーを直感的に扱えるようにすること。そして、どのような動力方式であっても、ドライバーの感情を中心に据えること。
これらの考え方が今後のアルファ ロメオにどのような形で反映されるのかが、注目すべきポイントになるだろう。
アルファ ロメオが未来へ引き継ぐ「運転する喜び」
Cuorerossoは、イタリアの美意識、スポーティネス、そして赤という象徴的な色を通じて、アルファ ロメオのアイデンティティを再定義するコンセプトカーだ。
液体金属を思わせるエクステリア、感情に訴えかけるLiquid Ink Red、ドライバーを中心に設計されたインテリア、そして複数の電動化技術を受け入れる柔軟な将来像。そのすべてを貫いているのが、「Bellezza Necessaria」という思想である。
電動化やデジタル化が自動車の価値観を変えつつある時代において、アルファ ロメオは技術そのものを目的にするのではなく、技術を通じて運転する喜びをどのように高められるかを問いかけている。
Cuorerossoが示す未来は、単に速く、効率的なクルマをつくることではない。ハンドルを握る前から心を動かし、走り出したあとも感情に残るクルマをつくることだ。
その心臓部にあるのは、電気でも内燃機関でもなく、アルファ ロメオが長年大切にしてきた「走ることへの情熱」なのかもしれない。




















































